2024.05.02
墓石は一生に何度も購入するものではありませんが、その特性故に文字彫刻やイラスト彫刻の種類、形状など深く考えたことがない方が多いと思います。
ここでは日本の墓石に施す文字彫刻とイラスト彫刻についてや、彫刻を施す際の注意点など解説します。
古来より墓石は、そのご家族の先祖の死後の家として意味合いが強く、彫刻により故人の戒名や宗教的な題目を施し特別な意味を持たせてきました。
近年では供養の多様化により、故人の意向を尊重した様々な彫刻なども増えています。
実際にどのような種類の文字彫刻やイラスト彫刻があるのか、確認してみましょう。
文字彫刻では、お墓の顔にもなる棹石に様々な文字を刻みます。
一般的には、家名、題目、俗名や没年月日、享年、建立者名などを棹石に記載します。
浄土宗や日蓮宗の他に、様々な宗派により刻む文言が異なり、神道やキリスト教などそれぞれの信仰に則ったルールに基づき適切な文言を記載します。
棹石以外の箇所への彫刻は、故人への想いやご家族からの願いなどを施すことが多いようです。
デザイン彫刻では、一般的にお花のデザインや個人に由来する趣味や生前のお仕事内容などを形として彫刻に施します。
和型の墓石ではあまり自由にデザインすることは少なく、多くは洋型やデザイン型の墓石に様々なイラストを刻みます。
墓石に文字彫刻を刻む場所とその意味に関しては以下のようです。
棹石正面の彫刻は墓石の型により記載する内容が若干異なります。
和型墓石の正面には、一族のお墓であれば主に家名(〜家之墓)や、個人の場合には戒名や俗名、その他に宗派にそった異なる題目を彫刻します。
宗派ごとの題目は次のようなものがあります。
・浄土真宗、浄土宗、天台宗:南無阿弥陀仏
・日蓮宗:南無妙法蓮華経
・真言宗:南無大師遍照金剛
・曹洞宗、臨済宗:南無釈迦牟尼佛など
洋型墓石の正面には、主に故人への想いを現すシンプルな文字(絆や愛、心など)を1文字で彫刻するケースが多いようです。
中には、誠実や感謝など故人の人柄、性格を現す言葉を彫刻することもあります。
一般的には漢字やひらがなで、わかりやすいメッセージを入れます。
デザイン墓石に刻まれる文字は、お墓のデザイン性にちなんだ文字が刻まれることが多いようです。
故人が釣りが趣味だった場合には「海」や、バイクが趣味の方なら「道」や「風」などイメージの湧きやすい文字を使用します。
棹石右側には、一般的に故人の戒名や没年月日、俗名、享年などが刻まれます。
宗教や地域により異なることがあるようですが、一般的には前述のようになり、墓石に記載される順番は埋葬順となります。
棹石左側や裏側の彫刻では、あまり決まりがなく建立年月日や法要年月日を刻むケースが多いようです。
地域によっては、お墓の建立資金を出した人を全て彫刻するケースもあるようです。
墓石に文字を刻む際に、どの様な加工手法で刻むかで印象が変わります。
一般的には以下の様な手法があります。
1画目を強く彫るのが特徴で、最も一般的な彫り方です。
読みやすいのが特徴なので利用されるケースが多くなります。
文字部分ではなく、周囲を彫り込むことでデザイン性を上げる方法です。
文字の他に、家紋など目立たせる際に用いられることがあります。
文字の中は彫り込まず、輪郭のみ彫り込みます。
崩し字を彫る際によく用いられ、上品に仕上がるのが特徴です。
文字彫刻のデザインをいれる際には、注意が必要なこともあります。
前述で解説しましたが、宗教や宗派で彫り込む文字は異なります。
法律で決められた厳密なルールではなく、墓地や寺院による基本的なルールなので特に罰則などは無いようですが、場所によっては相応しくないとして注意を受けることもあるので気をつけましょう。
当然のことですが、死を表す言葉や「終焉」などの言葉は相応しくはありません。
今はよいと思っていても後々彫刻したことを後悔することにもなります。
一度墓石に刻むと容易に変更できないので、使用する文字選択は慎重にしましょう。
墓石に文字彫刻を施すのは主に棹石ですが、イラストは棹石以外にも花立、霊標、カロートの蓋などにも刻むことができます。
和型墓石では竿石の前面に花立が設置されていますが、ここにも彫刻をすることができます。
一般的には、この部分に家紋など大きめのイラストを入れる傾向が多いです。
カロートとは納骨室のことですが、地上に設置されたカロートにも彫刻を入れることができます。
地上カロートは比較的大きなスペースがあるので、大型の彫刻などを入れるのに適しています。
地上カロートの蓋に墓誌などを彫刻する際は、端にワンポイントでイラストを刻むとおしゃれで邪魔になりません。
暮石にイラストを彫刻する場合には、イラストにより様々な加工方法で施します。
一般的には以下の様な加工方法があります。
石材の鏡面を残して、イラストの周囲を彫り浮き上がらせて表現します。
一般的には家紋などのイラストに用いられることが多く、周囲を彫ることから彫刻範囲が広範囲に必要です。
濃い色の石材を利用すると濃淡が出やすくなります。
圧縮した空気と研磨剤をコンプレッサーで吹き付け墓石を削る工法です。
サンドブラストが開発される以前は、手彫りでしか施すことができなかったため、機械化されたことにより加工の時間短縮と再現可能なイラストの幅が大きく増えました。
コンピューター制御してイラスト加工するので、線の強弱や細かい模様も簡単に表現できます。
スジ彫りや淵彫りなどともいわれ、細い線を彫る加工法です。
細い線などを用いたイラストに使用されることが多く、単体では目立ちにくいので彫った箇所を白い色に着色するケースが多いようです。
デザインの輪郭部分を線彫りして、その内部を浅くサンドブラストで彫り磨きます。
内部のサンドブラスト部分を丸くふっくらと加工する二度彫り角丸仕上げなどもあります。
イラストを立体的に見えるように彫り加工する技法です。
サンドブラストや熟練職人の手作業などで加工しますが、サンドブラストの方が浅い彫刻で精巧に施すことができます。
見た目にインパクトがありますが、加工難易度が上がるので費用も高くなります。
コンピューター制御したレーザー彫刻機を使用して、写真などの細かいデザインを石材に刻みます。
利用用途の多くは人物像やペットなどの写真をデザインとして使用します。
細かなイメージが想像通り再現できますが、彫り込みは浅くなり立体感は出せません。
前述以外にも暮石を差別化できる方法はあります。
象嵌の象は「かたどる」、嵌は「はめる」という意味があり、一つの暮石に対して異なる素材の石材を嵌め込む高度な技法を指します。
色が付いている石を使用することで、鮮やかな立体感を出すことができます。
色を着色するのではないので、色褪せも少ないのが特徴です。
洋型やデザイン型暮石では、ステンドグラスを暮石に埋め込む方法などもあります。
強化ガラスで作成されたステンドグラスを加工して、従来の暮石のイメージを変えるようなオリジナルの暮石が作れます。
イラスト彫刻のデザインを施す際には、注意すべき点もあります。
暮石にイラストを刻む際には、霊園や墓地にデザイン的な規制がないか確認するとよいでしょう。
場所によっては、相応しくないので遠慮して欲しいなどと決まりがあることもあります。
様々な技法により、彫刻できるイラストのバリエーションが増えましたが、あまり多くの彫刻を施すのはおすすめできません。
デザインを入れすぎたことにより、安っぽく見えてしまうことがあるので注意しましょう。
いくら技術が進歩したからとはいえ、石材を彫るのに細かすぎる模様は彫刻が難しい場合があります。
こだわりが強いのはよいことですが、あまりにもいきすぎるとイメージと異なる仕上がりになる恐れがあります。
再現可能かわからない場合には、一度石材店の見解を聞くとよいでしょう。
日本の墓石デザインについて、文字彫刻とイラスト彫刻を中心に解説しました。
墓石に文字彫刻する際には、宗派や地域により記載する内容が異なるので確認する必要があります。
また、デザイン彫刻は一般的にお花のデザインを入れるケースが多いようですが、故人が生前に親しんだ趣味や想いなども彫刻することができます。
墓地や霊園によって禁止されていないデザインを使用して、末長く供養できるお墓を作成するのがよいでしょう。
もしデザインやイラストでお悩みのことがありましたら、墓石のプロである石材店に相談すると安心です。